釧路市の南西約10㎞、広大な釧路湿原を見下ろす台地に「北斗遺跡」はありました。
擦文時代の竪穴式住居を復元したり出土品を展示している北斗遺跡は、車止めの駐車場で車を降り、一部遊歩道のついた太古の森を抜けた、その先にありました。
駐車場は、他に乗用車が1台あるのみで、四方を静寂の森に囲まれ、ひっそりとしていました。先に行った観光客のものなのか、管理人のものなのか、いずれにせよ、われわれ以外の人影は全くありません。
さあ、ここから少し森を歩くか。
駐車場から森の入口をめざし、歩を進めようとした、その傍らに一枚の看板が立ってました。
「最近、この近くでヒグマが目撃されています。ご注意下さい」
はいーッ?ヒグマ…!?
トラウマがあり、犬すら嫌いな私です。
ヒグマなんぞに注意するったって、何をどうすればいい…?
以前、初めて友人に連れて行ってもらい、それから釧路に行くたびに訪ねている炉端の親父さんから、ヒグマの話をいろいろ聞いたことがあります。
その親父さんはかなりの年配なのだが、アウトドアの達人というよりほとんど森の住人。話を聞くたび、その森での話にうっとりしてしまう。ほとんどオランウータンのよう…な遊びの達人。毎週末になると、都会の釧路を離れ、親しい友人たちと、やれ知床だ羅臼だ斜里だと、山にこもっては、本物の大自然の遊びを楽しんでいる。道東の人間がうらやましい。
「俺はね、ねっから人が嫌いなのさ。街の中とかスーパーとか全く行きたくない」って、いつもそういう親父の小さな店に、毎日また魅力的な同類の人たちが、たくさん集まるんだよなあ。うらやましい。おっと、閑話休題…。
で、もし森でクマと遭遇してしまった場合、
①死んだフリする…ヒグマは、そいつが死んでるかどうか、あの巨大な熊手で、まず一撃して確かめるとのこと。
②走って逃げる…走れば必ず追いかけてくる。最悪!走れば犬より早いとか。
③木に登って逃げる…熊は極めて木登り上手。即効、アウト!
④川などに逃げる…ヒグマは鮭もとるし、泳ぎは上手。溺れた熊のニュースは聞いたことがない。
後は…、あえて挙げるとすれば
⑤戦う…まず、負けます!
⑥色気(女性の場合)…通じないと思う。自信があればトライしてみたら…。まあ、容姿は別として、ヒグマに負けず肉付きのいい体躯なら、仲間として認められるカモ…しれない。
で、結局、最善の策は…、(うまくいくとは限らないらしいが)
⑦恐がらず、刺激せず、目をそらさず、そのままの状態で後ずさりしながら、食料などを落としつつ、距離をとって次第に離れて行く。(そんなの普通無理だってば…)でも、それしかないらしい。
だから、遭遇しないようにするのが、やっぱり1番とのこと。
⑧鈴や音楽を大きく鳴らし、あるいは話し声などで、人間が近づいていることをヒグマに伝える。熊の方で遭遇を避けてくれる。これがベストらしい。
どうする?森の向こうへ行くかい?それとも戻るかい?
ヒグマは超恐いけど、せっかくここまで来たから北斗遺跡はみたいし…行くかなあ。
よしッ!行こうか。
で、われわれはどうしたと思います?
もちろん、⑧の行動ですね。
鈴も音楽も持ってはいなかったのですが、話し声はできる。
できるだけ、大きな声で会話しながら歩くこと。
そして、もうひとつ、音楽があれば…。
その時、ピンとひらめきました。
音楽…?
ある・ある・ある…、ここに今あるじゃないか!
そう携帯電話がありました。
携帯電話の着信メロディの再生音を最大音量にして、往復の森の中で何度も何度も鳴らしながら歩きました。
えっ、何の曲かって?
作り話じゃなくて、ホントにこの曲だけを何度もかけ続けて、ヒグマとの遭遇の恐怖心を抑えつつ、わざと大笑いしながら、往復の森の中を歩いたんですよ。軽快で明るいこの歌…をかけながら。
ある~日、森の中~、クマさんに出会った~♪
そう、「森のクマさん」の歌です。
(写真は、釧路湿原にある北斗遺跡)